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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)1号 判決 1948年6月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人佐伯静治上告趣意第一點について。

論旨は要するに原判決には刑法第三五二條第二項に從い公判手續を停止すべき理由があったにも拘わらず、これを停止せずしてなされた違法があるというのである。

記録を精査するに、昭和二十一年十二月十九日附で名古屋拘置所長から原審に對し診斷書を添附して被告人が胃潰瘍のため重態である旨の通報があったにも拘わず原審が公判手續停止の措置をとらず第一回公判期日を昭和二十二年一月二十一日と指定したことは論旨所論の通りであるが右期日に被告人が出頭しなかったため原審は公判を開かず第二回公判期日は追ってこれを指定することゝし、その後再三拘置所に對し被告人の病状を照會し出頭可能の状態まで回復したか否かをたしかめていたのであるが、同年六月十七日附で出頭可能との回答を得同月二十四日期日を同年七月二十二日と指定した。然るに、右期日にも被告人は出廷せず、しかも同日附病状報告書によれば出頭可能とあったので同日更に次回期日を同月三十一日と定め、該期日には被告人不出頭のまゝ審理を遂げ一旦判決言渡期日を同年八月四日と指定したのであるが、右言渡期日に辯論を再開し、同年九月十三日あらたに公判期日を同月十六日と指定し、該期日にはじめて被告人の出頭を得て當初よりの取調をやりなおしてその審理を終了したのであって、原判決はこの公判における辯論に基いて言渡されたものであってもとより適法である。右手續の經過によれば被告人の病状重態であるにも拘わらず、原審が公判手續停止の措置をとらなかったとしても、それは唯原審が再三被告人の病状を照會し若くは公判期日の變更を重ねる等煩瑣な手續をとるの止むなきに至っただけのことであって、被告人に對する關係においては、あたかも被告人が出頭し得るに至った昭和二十二年九月十六日の公判期日まで公判手續が停止せられていた譯であって、被告人はこれによって何等不利益を受けていないのである。從って論旨は採用に値しない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴第四四六條に從って主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)

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